【読書録】 死別の悲しみに向き合う─グリーフケアとは何か (講談社現代新書)

この本・著者について

著者は坂口幸弘氏。現在、関西学院大学 教授で、研究テーマは、死別後の悲嘆とグリーフケア。主著に「増補版悲嘆学入門」、共著に「グリーフケア」など。

初めて読んだ悲嘆に関する本がこれでよかった

私自身が死別を体験し、悲嘆の真っ只中にありながら、「この体験は一体何なのか」という疑問が生まれてきました。そんなときに、初めて読んだ悲嘆に関する本がこれでよかったと今となっては思っています。

というのも、グリーフケアの概説を一通り行うだけでなく、著者ご自身が第一線で遺族と向かい合ってきたためか、私たちの悲しみにも寄り添ってくださっており、苦しみや悲しみが受け入れられていく感覚を体感することができるためです。

また、死別以外では体験し得ないであろう体験や感情にも随所で触れてくださり、「こんな風に感じてしまうのは自分だけではないんだ」「こんな風に苦しむ自分は変ではないんだ」という安心感も得ることができます。

くわえて、著者が再三述べているように、死別という経験はとても個別的なものです。そんな千差万別な読者の誰にとっても、次に読むと良い本や、考えるべき事柄の道標を、引用等を踏まえながら示してくれる、研究者らしい博覧強記ぶりに助けられるという点でも、まさに「死別の悲しみに向き合う」ための第一歩として最適な一冊だと言えるでしょう。

特に心に響いたフレーズ

残された者は死者を"見送る"のであり、死者は"旅立つ"のである ...(中略)... いずれ"天国"や"あの世"で亡き人と再会できると信じることができれば、残された者の苦しみはわずかでも軽減されるのかもしれない。

― P.130 【第四章 死別に向き合うプロセス - 3 "あの世"を身近なものにする】より


もし、亡き人にたいして実際に"よくないこと"をしてしまっていたとしても、その一方で亡き人のために"よいこと"もきっとたくさんしてあげたのではないだろうか。私たちはふだんの生活において、身近な人を喜ばせることがあれば、怒らせたり、悲しませたりすることもある。相手にとってよかれと思って取った行動が、悪い結果になってしまうことだって現実にはよくある。いつも完璧な判断や行動ができる人なんていない。

― P.153 【第五章 あなたが死別したとき必要なこと、役に立つこと - 2 悲しむためにも健やかに】より


すると彼女は、「配偶者をなくすことがこんなにもつらいということを、経験して初めて知った。これは私の主人では耐えられない。主人にこの思いをさせるぐらいなら、私が経験したほうがよかった」と悲しみを堪えながら、まるで自分に言い聞かせるかのように話してくれた。

― P.164 【第五章 あなたが死別したとき必要なこと、役に立つこと - 2 悲しむためにも健やかに】より


「聴くというのも、話を聴くというより、話そうとして話しきれないその疼きを聴くということだ。そして聞き手の聴く姿勢を察知してはじめてひとは口を開く。」

― P.195 【第六章 あなたの身近な人が苦しんでいたら - 2じっくりと、焦らず】より


相川はあきらめることを学ぶことで、気持ちに変化が生じ、新たな希望も芽生えたと述べている。相川の考える"諦める"とは、人生そのものを捨てたのではなく、自分にできることとできないことを区別して、できないことをやめること、あるいは、人間の力ではどうしようもないことがあるという事実を認めて、過去や先のことについても思い煩わず、目の前のことに全力を傾けることだという。

― P.221 【第七章 死別の後を生きる - 1 悲しみと折り合いながら】より


相川の実体験にもとづく論考は、プロテスタント進学者であるラインホルド・ニーバーの祈りの言葉である「平静の祈り(The Serenity Prayer)」と重なる。人は死別というできごとは変えられないが、その体験の意味や、その後の人生は自分なりに変えていくことができるのである。

神よ/変えることのできるものについて/それを変えるだけの勇気をわれらに与えたまえ。/変えることのできないについては/それを受け入れるだけの冷静さを与えたまえ。/そして、/変えることのできるものと、変えることのできないものとを、/識別する知恵を与えたまえ。


― P.223 【第七章 死別の後を生きる - 1 悲しみと折り合いながら】より


一年半ほど前にご主人を亡くした四十代の女性は、私にしみじみとこう語ってくれた。「七十歳になっても、八十歳になっても、夫婦がともに行きているっていうのはすごく運がいいなと思う。宝くじなんかよりずっと運がいいなって」

― P.237 【第七章 死別の後を生きる - 3 "そのとき"に備えて、いまできること】より


「俺な、お前と結婚してよかった。また生まれ変わってもお前と結婚するからな」/ご主人を亡くした四十代の女性は、亡くなる直前に、夫からこの言葉をもらったという。夫の死から二年近くが経ついま、この女性は働きながら十代の娘二人を育てている。「最高の言葉をもらったから、もうなんの悔いもない。もちろんさびしさはありますよ」という彼女の言葉は、とても力強いものであった。

― P.241【第七章 死別の後を生きる - 3 "そのとき"に備えて、いまできること】より